
自立した瞬間
お仕事
2013年、いろいろとあって会社を辞めた。
次の就職先も決まっていなかったけど、若かったし、「なんとかなるっしょ」と楽観的に考えていた。しかし、現実には箸にも棒にもかからなかった。
そんな折、とある番組でお世話になったテレビプロデューサーから、番組終了の打ち上げパーティに呼んでもらうことがあった。
華やかな場所に行けることが誇らしく、いそいそとオシャレをして行ったら、モードな感じの受付の人が当然のように言った
「お名刺をいただけますか」
すでに会社員ではないので、名刺はない。就活中だったから、フリーランスでもない。しどろもどろになりながら自分の状況を説明し、会場に入った。
私の右胸には、幼稚園児のような文字で書かれた「小泉なつみ」という紙が、本来は名刺を入れるプラスチックケースの中に収まっていた。
何者でもなくなってしまった(と、その時は思った)自分にその時はじめて気がついて、足元がスースーした。というか、本気で、「小泉なつみ」があるだけだった。
今思えば、この瞬間に自立が始まったような気がする。